
沙耶の唄をクリアしたので簡単に感想を書きます。初美少女ゲームなので他の作品タイトルと比較したりはできません。ネタバレあり。
- 狂気の中で正気だったもの―“純愛”といわれる理由
- 【病院ED】希望を抱いたまま生きるという罰
- 【耕史ED】奪われた側の物語
- 【開花ED】愛したが故の繁殖と新しい世界
- 沙耶の唄が初めての美少女ゲームに
- 【まとめ】狂気と呼ばれるにはあまりにも切実で
狂気の中で正気だったもの―“純愛”といわれる理由
純愛だといわれる本作で一番印象に残ったのが、沙耶から郁紀に向けられる「昔の暮らしに戻りたいか」「事故で失ったものを取り戻したいのか」という問い。このときの沙耶は、郁紀が人としての道を完全に踏み外してしまうことをどこか恐れていたのだと思う。それは心配であり、ためらいであり、彼の人生を歪めてしまうことへの、消えない後ろめたさでもあって。

ここで主人公が「(元の生活は)もういらない」と答えていたら、二人は迷うことなく、周囲など顧みずに破滅へ向かって進んでいけた。沙耶は、郁紀に(盲目的に)愛されたいという欲望を、確かに持っている。それでもその選択は、郁紀がもう元には戻れなくなることを意味していて、だから沙耶は、彼の手を強引に引くことができない。
この選択は本作にとって重要な分岐点。単なる選択肢としてだけではなく、沙耶が郁紀に向けて抱いていた罪悪感、気遣い、恐れ、そして切実な愛の感情の全てが滲み出た問いだった。郁紀が普通ではなくなってしまうことに対して、沙耶は最後まで無自覚ではいられなかった。
自分の恋が彼の人生を奪ってしまうかもしれない。それでも、愛してほしい。けれど、その愛の代償を彼に一方的に背負わせることはできない。この問いは、沙耶の恋心が、単なる自己中心的な執着ではなかったことの証明だと思う。だって、自分との未来を否定されるかもしれない問いでもあったはずなのに…。

この選択を郁紀に委ねたこと自体が、どうしようもなく、愛だった。私はここに本作の純愛を見ました。狂気の中にあっても相手の人生を想わずにはいられなかった。どうしようもなく不器用で、残酷で、人ではない沙耶の人間臭い愛。
【病院ED】希望を抱いたまま生きるという罰
エンディングについても書こ。個人的に一番好きなのは病院ED。乙女ゲーでもそうなんだけど、どちらか一方が取り残されてしまうエンディングに弱い。愛し合っていた二人のうち片方だけが生き残り、心に深い傷を負ったまま、もう二度と会えない――あるいは、会えるかもしれないという希望だけを抱えて、残りの人生を生き続ける。
救いがあるようで、決して完全には救われない結末。それでも、失った相手への恋心を抱えて生きていくことを強いられる物語が、どうしようもなく好き。
【耕史ED】奪われた側の物語
耕司EDは救いようのない後味の悪さがあって良かったなー。彼が失ったのは親友や友人、恋人だけでなく、彼自身が拠って立っていた「正常な世界」のそのもの。何も残らなかった。そう言い切れてしまうほどに、徹底的な喪失。
この√は途中から耕司が主人公らしくなっていくのも良かったです。結局私達プレイヤーは普通の人間だから、知覚の正常な耕司の見ている世界や彼の価値観の方が感情移入しやすい。恋人や友人を奪われた焦燥、常識の通用しない世界で正気を保とうとする苦しさ。それらは、主人公の狂気よりもずっと想像できてしまう感情だった。

確かに地味な√かもしれないけど、読み終えた後に残るのはどうしようもない虚無感と後味の悪さで、なかなかにおもしろかったです。
【開花ED】愛したが故の繁殖と新しい世界
開花EDはおそらく本作のメインEDかな?そもそも解釈についてだけど、沙耶は世界を侵食し繁殖するために生まれた存在→けれど奥涯と一緒にいるときはそれができなかった。なぜなら恋愛感情というものを学んでしまったから。繁殖というものの本来あるべき姿、愛した人との子孫を残す、というその愛の部分がなかったから、繁殖することへの熱意を失って、できなかった→しかし郁紀と出会って、愛を知り、本来の目的である繁殖を果たすことができた……っていう解釈で合ってるのかな。
世界を新しい世界へと作り変え、自らの存在理由を全うする。けれどその代償として、彼女は少女としての姿を失う。郁紀に惑星(ほし)を贈り、ある意味では二人は共に在ることはできても、それはもはや人と人が愛し合う形ではなくなる。沙耶だって、人の姿のまま愛し合いたかったのではないか。けれど、愛することは繁栄へと繋がり、その結果として彼女は世界を変え、姿を変えざるを得なかった。どのみち、二人がこのまま一緒に在り続ける未来は、最初から存在しなかったのだと思わざるを得ない。それでもやめられなかったのは、やはり恋心があったから。だからこの結末もまた、純愛と呼ばれるものだと思う。

でも、彼女は求めていた愛を得ることができたんだもんね。ある意味ではハッピーエンドなのかなぁ、いやメリバか。はたから見れば歪んでいる。狂気的で、破滅的で、多くの人を巻き込む。けれど二人にとっては、ただひたすらに真っ直ぐな愛だった。愛し合った結果が破滅だっただけで、愛そのものは嘘ではなかった。
沙耶の唄が初めての美少女ゲームに
美少女ゲーム初心者の感想としては、いい意味で乙女ゲーと似てるなって。あとは肌色シーンに入る流れが思ったよりも自然。沙耶の唄のようなテイストの作品って多いのかな。抜きのためにプレイしてるわけじゃないからもちろんシナリオ重視だし、元々こういう鬱っぽいのが好きだから。こういう作風の作品が他にもあればぜひやりたい。オススメあればここでもTwitterでもいいので教えてください…。
【まとめ】狂気と呼ばれるにはあまりにも切実で
取り戻せない場所があり、戻れない場所があり、それでも選んでしまった未来がある。そのすべてが狂気と呼ばれてしまうのかもしれないけど、そこには確かに愛があったと思う。
美少女ゲームという枠に収まるような作品ではないし、終わった後もしばらく余韻が続いて忘れらない、そんな作品でした。